映画のプロデューサーと音楽のプロデューサーは違うと思う。
音楽のほうは、もっと技術的だし、アーティスト寄りなんだけど、映画のほうは、もっと上辺で、しゃべりと接待って感じだ。
でもPRも含めてプロデューサーというのならば、ゴールは同じようなことなんだし、外側から見ると違って見えるようなだけで、本人たちは同じ土俵で戦っていると思っているのかもしれない。
川村元気、という名前をあんまり気にしたことはなかったし、全然知らなかったけど、たくさんの売れた映画を「製作」している。
この「製作」という言葉が嫌いなのだ、私は。
私はずっと「制作」をしてきたから。これからもずっと「制作」をしていくから。
0から1にすることが、どんだけ大変でやりがいがあるかってことを知っているから、1を100にする人を、あまり尊敬できない。
でも自分が作った1を100とか10000にしてくれたら、嬉しくて幸せなんだろうな。
私にとってのそんな人に出会ったことないから、嫉妬もあるのかもしれない。
全然違う技術が必要なんだろう。だって私は1を10にもできないかもしれないから。
そんな川村元気さんが、人生の先輩と、「今頃(30代後半)何してましたか」って話を聞く、っていうインタビュー。
私は映画とかテレビ番組とか疎くて、もはや芸術系の方が詳しくなってしまった。
そんなことにも驚きつつ、短い文章だったけど、先方の態度や話し言葉が簡潔にまとめられてて分かりやすいのが良い。
人が善いなと思ったのは、谷川俊太郎。さすが。
私は彼のことを、佐野洋子フィルターを通していっぱい見ていたけど、自分の言葉で話す彼は、とても丁寧で、育ちが良いのが滲み出ていて、偉そうでもなくて、驕り高ぶらず、帰り際に絵本をくれるなんて、とても素敵だと思った。
同じくらい、善い人だと思ったのは、坂本龍一。
偉そうじゃないのに、丁寧なのに、話し方は謙虚なようなのに、とんでもないことやってる。天才だあ。
長く生きているからってだけで偉そうな雰囲気になってしまう人の人間性が苦手だ。
自分はそうなりたくないと思う。
意外だったのは、横尾忠則さん。
もっと強気で、村上隆みたいな、嫌な感じのアーティストかと思ったら、全然そんなことなかった。
ピュアで、謙虚で、真っ直ぐな人だった。
言葉も丁寧で、老人ぽくなくて驚いた。
この本の中で一番の名言を残したのは、間違いなく彼だ。
245ページ
「絵に限らずすべてに対してあまり愛さないほうがいいよね。家族や友人や恋人への愛もほどほどでないと、愛でもなんでもなくなって単なる情になってしまうから。」
そうなのか、それをもっと早く知っていたかった。
多分私は愛しすぎたのだろう。そして情になってしまった。それがいけなかったのだ。
川村元気さんは何にも触れてなかったけど、私はこの2行を読めただけで、本当にこの本に出会えてよかったと思う。
さらに、横尾忠則さんの「コラボレーション」に関する考え方も、目から鱗で好きだった。
化学反応みたいなのを楽しみたいのだ。
握手しましょうね、なんて生ぬるいもんじゃなくて、もっと、バチバチしていて、でもリラックスしてゆるくて、何が起こるか分からない旅みたいなものを始めましょうね、っていうのが、彼の理想とする「コラボレーション」なのだ。